基礎からわかる税効果会計

税金
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まいる
税効果会計はよく聞きますが、全く分からないです。。
先生
税効果と聞いただけで嫌な気持ちになる人もいるくらい難しい論点として評判だね。でも、2018年度の改正から、日商簿記2級からも税効果会計が出るようになったんだ。試験でも実務でも欠かせない税効果会計について、その本質を理解していこう!

税効果会計は、企業会計と税務会計の相違点を調整し、適切に期間配分する会計処理です。

税効果会計では、主に「繰延税金資産」「繰延税金負債」「法人税等調整額」の3勘定科目しか出てきません。しかし、多くの方が税効果会計は分かりにくい論点と考え、苦手としています。

そこで、まずはわかりやすいP/L面から税効果会計を考え、B/S面からその真髄を見ていきましょう。

1.P/Lから考える税効果会計

税効果会計に馴染みのない方にとっては、P/L(損益計算書)面から税効果会計を考える方が分かりやすいです。

税率が30%として、会計上の税前利益が300あったとき、税金費用は90(利益300×30%)だと思いますよね。

ところが実際の税金費用は90にはなりません。例えば貸倒引当金200が会計上は費用に入っているものの、税務上は一切認められない(200は損金にならない)といったことがあるためです。

このように、税金費用は税務上の課税所得に税率をかけて算定します。この課税所得は、会計上の税引前利益とは一致しないのです。企業会計と税務会計が異なる理由については、以下の記事で詳細に解説しています。

法人税の計算方法 ~企業会計と税務会計の違い~

ある期は税金費用が高いために税引後利益が小さく見えて、別の期は税金費用が安いために税引後利益が大きくなる。財務諸表を見る人は困惑しますね。こういった現象を避けるために、税効果会計を導入します。
実際に支払う税金費用は150ですが、P/L上の税金費用を90(利益300×30%)にすることで税引前利益と税金費用が30%の関係になります。実際に財務諸表を見る人もこれなら困惑しません。この「実際に支払う税金費用150」を「P/L上表示する税金費用90」に変えてあげるのが「税効果会計」です。

法人税等の額を期間配分することで、法人税控除前の当期純利益と法人税が期間的に対応します。

この時の仕訳は以下の通りです。

繰延税金資産60 / 法人税等調整額60

右側(貸方)に法人税等調整額が60計上されています。右側は「収益」サイド、別の言い方をすると「費用のマイナス」サイドですね。

実際に支出した税金150という費用から、60だけマイナスしてあげることでP/L上表示する税金費用90になりますね。そのため法人税等調整額が右側(貸方)に60計上されています。

次章では、左側(借方)に計上されている「繰延税金資産」について確認していきます。

Column:貸倒引当金における、会計と税務の違い
得意先に対する売掛金には先方倒産等によって回収不能となるリスクが生じています。このリスクを可能な限り当期の財務諸表に反映させるのが、会計における考え方です。

1期目に当期の売上・売掛金は計上されており、2期目に貸倒が起こったとします。1期目は売上のみが、2期目は費用のみが発生することになってしまうので、1期目は財務諸表がとても良く見える一方、2期目はとても悪く見えてしまいます。両方とも取引先への同じ取引から発生している事象なのに、費用と収益のタイミングが一致しないためにこのような事態が起こってしまいます

会計はこのように「費用と収益のタイミングが一致しないこと」を嫌います。そのため、期末時点で可能な限りタイミングを一致させるよう、貸倒リスクを見積もって1期目の売上に対応させようとするのです。

上記の考え方のもと、会計上は売掛金等の債権を主として3区分に分けて、貸倒引当金を設定します。

<会計上の区分>
・一般債権:通常の債権で、特段問題等がある相手先への債権ではありません。
・貸倒懸念債権:重大な問題が発生している、又は発生する可能性が高い債権です。個別に回収可能性を勘案して、貸倒引当金を設定します。
・破産更生債権:実際に破綻した債務者の債権です。回収できる金額を差し引いた全額に対して、貸倒引当金を設定します。

一方、上記のリスク判定は企業によって幅があります。取引先の会社が倒産するかもしれない時に、どこまで売掛金が回収できるかを見積ることは難しそうですよね。

税務上はそういった「幅のある処理」を嫌います。同じ取引先を相手にしているのに、A社は貸倒引当金繰入が200、B社は300で処理したとすると、B社の費用の方が大きいため、B社の利益は小さくなります。その結果、支払う税金が小さくなってしまいます。

同じ取引先に対する貸倒引当金繰入額なのに、支払う税金が異なってしまうことは不公平ですね。そのため税務上はリスク評価である貸倒引当金をほぼ認めておらず、実際に更生計画認可の決定が下りる等、明確に貸倒損失が発生した段階でしか損金算入が認められません。(中小法人等では一部認められる場合もあります。)

2.B/Sから考える税効果会計

2.1 将来の税負担軽減・増額の影響を反映する税効果会計

税効果会計は上記の通り、P/Lから見ると非常に分かりやすいものとなります。税前利益と法人税等を対応させるために税効果会計があると言えるからです。

一方、しっかりと税効果会計を理解するためには、B/S(貸借対照表)からの理解が欠かせません。よく実務で出てくる論点はP/Lだけでは理解が出来ないので、結果として税効果会計は難しいという印象になってしまいます。税効果会計が分からない原因は、B/S側(繰延税金資産・繰延税金負債)の確認不足の可能性が高いので、是非ここで確認していきましょう。

B/Sから見た時には、将来の税負担軽減・増額の影響を繰延税金資産・繰延税金負債として計上することが、税効果会計を行う目的となります。

先程の例を使って考えていきましょう。売掛金200に対して、貸倒引当金200を設定しています。この貸倒引当金が税務上は一切認められない(損金不算入)ために、税金費用が大きくなるのでしたね。

翌年度において、実際に相手先が倒産してしまい、売掛金200が回収できないことが確定しました。会計上は前期に費用200を計上していますから、当期は費用0です。(貸倒引当金を取り崩すだけです。)

一方、税務上は貸倒損失が客観的な形で実際に発生しましたから、損金200の計上が可能です。倒産によって必ず貸し倒れると分かったのであれば、客観的で公平な判断が可能だからです。

2期目は会計上費用にならないものの、税務上損金となっています。つまり、課税所得が小さくなるので、税金費用が安くなるのです。

その他の条件は全て同じとして、1期目と2期目の会計・税務決算は以下の通りとなります。

1期目と2期目の税金費用合計に着目すると、会計上は180(90×2)、税務上も180(150+30)と同額になっています。2期通算で見ると、会計でも税務でも同様に200の貸倒損が計上されていますから、税金費用も当然一緒になりますね。

1期目に着目すると、実際の税金が150である一方、会計上あるべき税金費用(税前利益×税率)は90です。つまり、利益水準からあるべき税金を考えた時に、前もって税金を60だけ多く支払っているように見えますね。

次に2期目に着目すると、実際の税金は30と非常に小さい金額です。会計上で考えるとあるべき税金は90ですが、実際に支払う必要のある税金は30です。60だけ将来の税金が安くなっていると言えるでしょう。

1期目においては、2期目という将来において利益が生じた際、その利益水準よりも納める税金が小さくなっていますので、将来の税金負担軽減効果をB/Sに反映させるべく、繰延税金資産を計上するのです。

(1期目の仕訳)
繰延税金資産60 / 法人税等調整額60

左側(借方):将来の税金負担軽減効果60を反映させるために、繰延税金資産を計上。

右側(貸方):実際に支出した税金150から、費用のマイナスとして60控除。(会計上の利益に対応する税金費用90としている)

(2期目の仕訳)
法人税等調整額60 / 繰延税金資産60

左側(借方):実際の税金30に、会計上の利益水準に対応する税金費用90にするために、費用を60追加。

右側(貸方):将来の税金負担軽減効果が完了したため、繰延税金資産を取り崩している。

2.2 税務上の簿価と会計上の簿価

ここまでで、繰延税金資産と法人税等調整額を計上する理由は掴めました。ここからは、実務で税効果会計を使用する方に向けて、より税効果会計を理解するべくB/Sの側面を深掘りしていきます。

上述してきた会計と税務のズレは、P/Lだけの側面ではありません。P/Lにズレが生じるということは、B/Sにもズレが生じるのです。

貸倒引当金を設定した1期目において、売掛金の簿価は以下の通りとなります。

このように、会計と税務で帳簿価額にズレが生じます。帳簿価額のズレ(会計と税務の不一致)が生じ、将来の税負担軽減効果や増額効果がある場合に税効果会計を計上します。

そして、このズレが解消する期に税効果会計を取り崩すのです。今回の例では2期目の倒産による貸倒確定によって、会計・税務ともに売掛金の帳簿価額が0となります。

逆に言うと、会計上の簿価と税務上の簿価にズレが生じておらず、将来の税金負担軽減効果がない場合には、税効果会計を行わないのです。

貸倒引当金を計上したから必ず税効果会計を行うのではなく、貸倒引当金を計上した結果会計と税務に差が生じ、将来の税金支払軽減・増額のインパクトを与えることとなるので、税効果会計を適用するのです。貸倒引当金は税務上も一定の条件の下で認められますから、その際は税効果会計を適用しないこととなります。

3.繰延税金資産の回収可能性

税効果会計は将来の税金負担を軽減又は増額させる効果が発生した際に計上する仕訳です。そのため、将来の税金負担に変動がない場合は計上することが出来ません。

先程の貸倒引当金の例で、2期目の費用が1期目と比べて大きくなってしまったとします。

2期目に会計上の税前利益が50だったとします。2期目は損金算入200の結果、課税所得は▲150(所得が赤字)となりますので、納めるべき税金は0円となります。

会計上あるべき税金費用は105(90+15)ですが、実際の税金負担は150(150+0)ですので、今までの場合と異なり、2期合算しても相違が生じています。なぜ45相違するのでしょうか。

2期目の課税所得は▲150なので、純粋に税金を計算すると▲45(▲150×30%)です。しかし、繰越欠損金を一旦考慮外とすると、税金は0が最小なので、赤字の場合は「税金を支払わない」のみとなります。

その結果、「税前利益に対応する税金は15である一方、実際の税金は▲45で、その差は60」とはならずに、「税前利益に対応する税金は15である一方、実際の税金は0で、その差は15」となります。

このように、課税所得が赤字だった分の▲45が、会計上あるべき税金費用105(90+15)と、実際の税金負担150(150+0)との差として出てきます。

繰延税金資産は「将来の税金負担を軽減させる」効果がある時に計上しますが、この▲45については軽減効果がありませんね。会計上あるべき税金は105なのに、実際には150も支払っています。「将来の税金負担を軽減させる」効果がない時は繰延税金資産を計上しません。

そのため貸倒引当金分200×30%=60のうち、45については将来の税金負担軽減効果がないことから税効果会計を計上しないため、税効果会計計上額は15となります。

(1期目の仕訳)
繰延税金資産15 / 法人税等調整額15

この結果、1期目・2期目のP/Lに計上される税金費用は以下の通りです。2期合計の税金費用が150となり、実際に支払った金額と一致します。

このように、税金負担の軽減効果を上回る課税所得が見込まれない限り、税金負担は軽減されませんので、繰延税金資産は計上できません。しっかりとした課税所得が発生して繰延税金資産が計上できるかを考えることが、「繰延税金資産の回収可能性」を考えることなのです。

4.永久差異と一時差異

今までの例は、将来的に会計と税務の差が解消されることで、将来の税金負担を軽減・増額させるパターンでした。では、永遠に解消されない差異はどうなのでしょうか。

例えば交際費100について、会計上は費用として計上されるものの、税務上は全額損金として認められないとします。交際費は翌年度になったからと言って損金に認められるようなものではなく、税務上認められないのであれば永遠に認められない費用です。

この場合、将来の税金負担を軽減・増額させる効果は起こりえません。当期に計上した交際費は将来の税務計算において何も影響を与えないからです。

税効果会計は、「将来の税金負担を軽減・増額させる」場合に計上しますので、永久に認められない場合にはそもそも計上が不可となります。将来的に会計と税務の不一致が解消されるものを「一時差異」、解消されないものを「永久差異」と言い、税効果会計の対象となるのは「一時差異」のみとなります。

まいる
税効果会計についてとても理解が進みました!
先生
税効果会計はP/Lから考えることはもちろん、B/Sから考えることが重要なんだ。この調子でどんどん税効果に強くなろう!
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