財務諸表分析の第2回です。第1回では財務諸表分析の必要性とともに、「収益性」を測る指標としてROA・ROE・売上高利益率を見てきました。本第2回では「安全性」を見ていきましょう!
Contents
1.安全性分析とは
安全性分析のポイントは「問題のある会社を見つけるために行う」ことであり、計算のポイントは「貸借対照表(B/S)のみで比較をする」ことです。
倒産の可能性がある会社は財務諸表にその兆候が表れてきます。他社分析においては倒産しそうな会社か、経営は安定的かを判断する材料として、自社分析においては過去と比較して割合が下がってきているときに経営施策を早めに行うための材料として使用することができます。
2.安全性を分析しよう


2.1 流動比率:流動資産÷流動負債
流動比率は、短期的な支払能力に問題がないかを測る指標です。平均120%程度で、150%以上だと短期的な支払に全く問題がないように見え、100%を割っていると不安になる投資家が多い指標です。

流動資産は1年以内に現金化される資産、流動負債は1年以内に支払期限の到来する負債です。流動資産が流動負債を上回っている(流動比率が100%以上)であることは、短期的な支払能力が支払義務を補っており、短期的な資金ショートが起こりにくいと言えます。
流動負債が流動資産を上回っている場合(流動比率が100%未満)は、1年以内に現金化できる資産よりも1年以内に返済すべき負債のほうが多く、短期的な資金ショートの可能性があることになります。
一方、流動比率が高すぎる場合は遊休資産が多い非効率な経営とみなされ、買収の対象となってしまうこともあります。

2社比較で見る流動比率
A社:流動資産80億円、流動負債60億円
B社:流動資産100億円、流動負債120億円
A社は流動比率133%、B社は83%です。A社は100%を超えているため短期的な資金ショートが起こりにくいですが、B社は今後1年間で支払うべき金額の方が多いため、何らかの資金繰りをしないと短期的に資金ショートしてしまう可能性があります。
俗に言う「黒字倒産」はこのように短期的な資金ショートから発生する事態です。
Column:流動比率の罠!?
流動資産の中には、棚卸資産や前払費用といったすぐに換金できる性質のものではない項目が含まれています。
また、貸借対照表は決算日時点の金額であり、決算書を見る時点の情報ではありません。実際に現金が入金されるタイミング及び出金するタイミングまでは考慮していません。
そのため流動比率が100%を下回っていた場合でも、資金調達の目途が立っていたり、日々現金商売でキャッシュフローに問題がないビジネス(小売業等)の場合は支払能力に問題はありません。
流動比率はぱっと分かりやすいですが、あくまで参考の1つでしかなく、実際の支払能力は企業の状況によるということですね。
2.2 当座比率:当座資産÷流動負債
先程の流動比率から、現預金に重きを置いたのが「当座比率」です。流動比率は分子が「流動資産」でしたが、当座比率は分子が「当座資産」になっています。(分母が「流動負債」である点は変わりません。)目安はやはり100%以上となります。
※当座資産:現金、預金、受取手形、売掛金、一時所有の有価証券等、短期間に現金化できる資産
当座資産の計算が面倒な場合は「流動資産-棚卸資産」で計算しても差し支えありません。

棚卸資産は販売されて現預金として回収されるまでが長く、かつ不確実性を伴うため、短期的な支払能力を図るという意味では当座資産を使う方が、流動比率より厳密に短期的な支払能力を確認できることになります。
2社比較で見る当座比率
A社:流動資産80億円、当座資産70億円、流動負債60億円
B社:流動資産80億円、当座資産40億円、流動負債60億円
両社とも流動比率は133%と良好に見えますが、当座比率はA社116%、B社66%と大きく異なります。A社は当座比率も100%を超えていることから、短期的な資金ショートが起こりにくいです。一方B社は当座比率が100%を大きく下回っており、短期的に現金化できる資産より短期的に支払うべき負債の方が大きいことを示しています。
おそらくB社はたくさんの在庫を抱えているので、在庫が消化できないと資金繰りが危うい状況であることが推測できます。不良在庫の可能性もあるため、B社に投資や取引を考えている場合は、財務状況の詳細な調査が必要となります。
流動比率に問題がなくとも、不良在庫を抱えている場合は当座比率が小さくなるため、流動比率を補足する意味でも使用すると良い指標ですね。
2.3 自己資本比率:自己資本÷総資産(総資本)
聞いたことがある方も多い「自己資本比率」です。考え方としては「負債+自己資本」のうち、どれだけ「自己資本」があるかを図る指標です。
※自己資本=純資産-新株予約権-非支配株主持分
企業が調達した資本は「負債」(他人資本)と「自己資本」に大きく分かれます。負債は返済義務がありますが、自己資本(株主からの出資金+企業が獲得した利益の積上)には返済義務がありません。

自己資本比率が高いほど、企業は返済義務のない資本を元手に事業を行っていることになりますので、投資家から見ると経営が安定していると言えます。
なお、自己資本の定義は第1回の「ROE」と同様に、「将来の株主候補」である新株予約権や、「親会社の株主に帰属しない部分」である非支配株主持分を除くことで、「今現在の株主が持っている部分」を示しています。
自己資本比率は50%前後を超えているとかなり安定性がある企業と言えます。20~30%でも良く、15%程度が平均となっています。
2社比較で見る自己資本比率
A社:総資産100億円、自己資本10億円(負債90億円)
B社:総資産100億円、自己資本100億円(負債なし)
A社とB社は共に同じような規模ですが、新株予約権や非支配株主持分がないとすると、自己資本比率はA社10%、B社100%です。
A社は主に借入によって資金調達をして、事業活動を行っています。一方B社は無借金経営で、借入を行うことなく自己資本のみで事業活動を行っています。
この場合、安全性という観点から見るとB社の方が返済する必要のある金額が少ない分、安全性が高いということになります。


上記の観点の基礎となる、自己資本比率の逆数「財務レバレッジ」という考え方があります。財務レバレッジについては、第3回で詳しく見ています。
2.4 固定比率:固定資産÷自己資本
固定比率は、固定資産への投資額と自己資本を比較した指標で、固定資産に投資した資金のうち何%が自己資本でまかなわれているかを示しています。

流動比率では会社の短期的な安全性を確認していましたが、今回の固定比率では会社の長期的な安全性を確認します。
固定資産への投資を回収するには長期間を要するため、できるだけ返済義務のない自己資本を元手とする方が望ましく長期的に安定しているという発想です。固定比率は100%を切るのが望ましいです。
2社比較で見る固定比率
A社:固定資産50億円、自己資本60億円
B社:固定資産50億円、自己資本30億円
A社の固定比率は83%、B社は166%です。A社は固定資産全額について自己資本を元手としているため、長期的に安全であると言えます。一方B社は固定資産の一部を借入によって購入していると考えられるため、固定資産から収益がほとんど産まれないような状況になった場合、徐々にジリ貧となっていき、経営が悪化していく可能性があります。
しかし、株主資本コストよりも負債コストの方が低いため、負債も活用して事業を行う必要があります。そこで、自己資本のみでなく、長期間返済する必要のない長期借入金等の固定負債も考慮に入れる考え方があります。この考え方が、次の「固定長期適合率」です。
2.5 固定長期適合率:固定資産÷(自己資本+固定負債)
固定長期適合率は、固定資産に投資した資金のうち何%が長期資金(自己資本+固定負債)でまかなわれているかを示しています。

銀行から返済期間10年間で借入を受け、耐用年数10年の工場設備を取得するとします。この場合、設備の稼動期間である10年間で銀行借入を返済すれば良いため、長期的にも安定的な返済計画が立てられそうです。
固定資産への投資を回収するには長期間を要するため、同じく長期の借入か返済義務のない自己資本の範囲内で投資が行われていることが長期の安定を産み出します。そのため固定長期適合率も100%を切るのが望ましいです。
2社比較で見る固定長期適合率
A社:固定資産50億円、自己資本30億円、固定負債40億円
B社:固定資産50億円、自己資本30億円、固定負債10億円
固定長期適合率はA社:71%、B社:125%です。A社は固定資産の全てを長期投資でまかなっていますが、B社は全てを長期投資でまかなうことができておらず、差額の10億円分を短期借入にて補っている状況が推測されます。
そのためB社は長期的な資金繰り計画を誤ると、数年後に現金が足りなくなり倒産する可能性があるため、長期的な安定性の観点からはA社の方が良いです。

