財務諸表分析の第3回です。第1回では財務諸表分析の必要性とともに、「収益性」を測る指標としてROA・ROE・売上高利益率を見てきました。第2回は短期的・長期的な「安全性」の確認の仕方を学びました。第3回となる今回は、「ROEの分解」についてみていきましょう!
Contents
1.ROEの分解とは
1.1 ROEの基本
第1回でROE(Return On Equity)について見ましたが、今回はROEを高める方法について見ていきましょう!
まずは自己資本利益率ROEの基本から。
※自己資本=純資産-新株予約権-非支配株主持分

ROEは「利益」が「どれだけの自己資本から産み出されているか」を確認する指標でしたね。
株主自身の持分である自己資本を、企業がどれだけ効率的に使って利益を獲得しているかを示すため、企業が株主の期待にどれだけ応えているかを見ることができます。
そのためROEを重視する投資家は非常に多く、企業にとってもROEを上昇させることが重要な企業戦略となります。
なお、第1回は以下の記事となります。
1.2 ROEの分解
ROEは3つの要素に分解できます。(ROE分解のことを「デュポン・システム」と言ったりします。)

・当期純利益÷売上高は「売上高利益率」
・売上高÷総資産は「総資産回転率」
・総資産÷株主資本は「財務レバレッジ」
といいます。全て乗じると「当期純利益÷自己資本」となり、自己資本利益率(ROE)そのものとなりますね。
と表現することができます。この分解式は、売上高当期利益率、総資産回転率、財務レバレッジのどれか又は複数を上昇させることで、ROEを上げることができることを意味しています。
それでは各項目について見ていきましょう。
2.ROE分解の各項目(売上高利益率・総資産回転率・財務レバレッジ)
2.1 売上高当期利益率:当期純利益÷売上高

第1回で見た「売上高当期純利益率」です。当期純利益の売上高に占める割合を意味し、企業の収益性を測る指標となります。
売上高当期純利益率を上げるためには、売上高を維持しながら、原価・販管費・営業外損益等様々な費用を削減することが必要となります。つまり、効率的に稼ぐことがROEの上昇につながるのです。
株主にとって効率的に稼ぐことは非常に重要となるため、直感的に理解しやすい指標ですね。
2.2 総資産回転率:売上高÷総資産

総資産回転率は、会社が資産をどれだけ有効活用できたかを測る指標です。
上記の通り、売上高を総資産で割っています。すなわち、企業の総資産額が1年間に何回売上高という形で回転したのかを示す指標です。ざっくり売上高が総資産の何倍あるか(何回転しているか)を考えていて、比率が高いほど、資産が効率的に売上に結びついています。
総資産回転率を向上させるためには、総資産を維持したまま販売戦略によって売上高を増加させるか、売上高を維持したまま不要な資産を減少させることが必要となります。
2社比較で見る総資産回転率
A社:売上高1,000億円、総資産800億円
B社:売上高100億円、総資産125億円
A社は総資産回転率125%、B社は80%です。A社は1年間を通して総資産以上の売上高を稼いでおり、総資産を効率的に回転させていると言えます。
一方B社は総資産分の売上高を1年間で稼ぐことができていないため、回転率という観点ではあまり効率的ではないと言えます。
さて、ここまでの分解で見えてくるものがありますね。
売上高利益率を上げる、総資産回転率を上げることで、ROEを上げることができます。売上高利益率が高いパターンは「高級品の販売」、総資産回転率が高いパターンは「(薄利)多売」です。事業の特性にもよりますが、自社にとってROEを高めるのに必要なことはどれなのかを考えるのもまた大切です。
Column:ROAの分解
総資本利益率(ROA)は「当期純利益÷総資産」です。ROAは今まで見てきた2つの分解要素に分けることができます。
ROA=(当期純利益÷売上高)×(売上高÷総資産)
=売上高利益率 × 総資産回転率
ROEを考える際は更に「財務レバレッジ」という要素が加わってきますが、ROAを考える際はこれまで見てきた2つの要素のみの分解となります。
ROAを上昇させるのは利益率か回転率のみで、財務レバレッジは関係ないと言えますね。
2.3 財務レバレッジ:総資産(総資本)÷自己資本

財務レバレッジは第2回で確認した「自己資本比率」の逆数です。分母と分子を逆にする財務レバレッジは、「自己資本の何倍が総資産なのか」を表す指標です。


財務レバレッジが高いほど、負債(他人資本)の利用割合が高いことを示します。
会社は事業に資本を投じ、事業活動を通して利益を獲得します。高い収益性を見込むことができる事業であれば、負債で資金を調達してでも事業を行ったほうがより多くの利益を獲得することができます。
株主にとって、自己資本ではなく他人資本である負債を利用した結果利益が増加することとなるため、負債をてこのように利用して、リスク資本である株主のリターンを増やすことができることとなります。
そのため財務レバレッジが高いほど、負債を積極的に利用して事業を拡大している企業と言えます。
さて、財務レバレッジは自己資本比率の逆数でした。自己資本比率が高いほど経営が安定し、財務レバレッジが高いほど負債を活用して事業を拡大していることとなりますね
どちらも正しく、倒産しないように自己資本比率は高めるべきですが、かと言ってビジネスチャンスを逃すことなく投資を行うことも必要となります。

なお、第2回は以下の記事となります。
2社比較で見る財務レバレッジ(好景気・不景気)
A社:総資産100億円、自己資本10億円(負債90億円)
B社:総資産100億円、自己資本100億円(負債なし)
第2回と同じ例ですが、今回のポイントは「A社は財務レバレッジが高い」「B社は自己資本比率が高い」ということです。
「好景気(業績が良い時)」「不景気(業績が悪い時)」にどちらが有利か、考えていきましょう。
検討ポイント
負債は好景気でも不景気でも支払うべき利息に変動はありません。借入金は年率何%という風に、契約で決まっています。
しかし株主資本はそうではありません。株主投資家は負債を貸し付けている人よりリスクを取っているわけですから、リターンも負債の利回りより大きい金額を当然期待します。そのため利益が出る状況では高額の配当を求めますが、利益が出ない状況では配当原資がないので配当もありません。
好景気の(業績が良い)場合
会社は好景気のため多額の利益を産み出していることから、株主に対して多額の配当金を支払う必要があります。
一方負債の利息は株主への配当より小さいことから、好景気においては負債を活用している企業の方が現金の流出が少ないこととなります。そのため企業により多くの金銭が残るのは、財務レバレッジが高く自己資本比率が低いA社になります。
不景気の(業績が悪い)場合
業績が悪くなった時は会社に利益が発生しないため、配当金の支払いを見送ることができます。
一方負債は業績にかかわらず必ず利息が発生するため、不景気においては自己資本を活用している企業の方が現金の流出が少ないこととなります。財務レバレッジが高く自己資本比率が低いA社は、借入金の利息が支払えない場合は倒産することとなってしまいます。B社は自己資本のみなので、不景気でも倒産を心配することなく経営を行うことができます。
このように、業績が良い場合には財務レバレッジが高い方が成長が見込める一方、業績が悪い場合には自己資本比率が高い方が倒産可能性が低く安定性があります。
ROEの上昇には財務レバレッジの上昇が1つの要因となりますが、安定性を欠いた経営は倒産リスクがありますので、適切な範囲内でレバレッジを上げる必要があります。

