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1.全体像のおさらい
「収益認識に関する会計基準」には「①契約の識別」→「②履行義務の識別」→「③取引価格の算定」→「④履行義務の取引価格への配分」→「⑤履行義務の充足による収益の認識」の5ステップがあります。その中で今回は「①契約の識別」に焦点をあてていきます。

収益認識に関する会計基準の全体像については、以下の記事で纏めていますので、是非ご一読ください。
2.ステップ1:契約の識別とは
「①契約の識別」は「そもそも契約と認められたものを収益に計上しましょう」という段階です。
これだけ見ると非常に当たり前の話ですね。言葉は難しく見えるものの、かみ砕けば意外と馴染むことができる基準です。
では、もう少し細かく見ていきましょう。
売上の対象となる契約は、以下5つの要件全てを満たした契約です。逆に言えば、1つでも満たさないと売上として計上してはいけないことになります。
<収益認識に関する会計基準 19項一部抜粋>
(1) 当事者が、書面、口頭、取引慣行等により契約を承認し、それぞれの義務の履行を約束していること
(2) 移転される財又はサービスに関する各当事者の権利を識別できること
(3) 移転される財又はサービスの支払条件を識別できること
(4) 契約に経済的実質があること(すなわち、契約の結果として、企業の将来キャッシュ・フローのリスク、時期又は金額が変動すると見込まれること)
(5) 顧客に移転する財又はサービスと交換に企業が権利を得ることとなる対価を回収する可能性が高いこと

(1) お互い納得した上で契約を締結してること。
(2) お互いの権利関係が明確であること。
(3) 支払条件がない契約は対象外!
(4) 循環取引等実態のない取引は対象外!
(5) 回収できない売上は対象外!
普通の取引をして普通に契約書がある場合、(1)~(4)は通常満たされます。問題は(5)です。相手側に支払う意思・支払う能力がない場合、そもそも売上に計上することが出来ないのです。
上記全てを満たさない場合、(一定の要件を満たす場合を除いて)受け取った対価は売上とせずに「負債」として計上されます。
3.契約を結合しよう
実務上、契約書の作り方は会社や担当者レベルでバラバラです。例えばテレビを購入し、修理点検を5年間無償で行ってもらう保守サポートパックに加入したとします。
会社Aでは「テレビ自体を引き渡す契約書」と「5年間無償で修理する契約書」の2通に分け、会社Bでは1つの契約書上で併記しているといったことは、往々にしてあります。「契約書単位」で収益を認識することになると、会社Aと会社Bで収益の認識タイミングや各タイミングでの認識金額が異なってしまうことが起こりえるわけです。
そのため収益認識会計基準では「同じ顧客」に対して「ほぼ同時に締結した契約」のうち、以下の要件を満たした契約を「結合」して1つの契約と考えます。
<収益認識に関する会計基準 27項一部抜粋>
(1) 当該複数の契約が同一の商業的目的を有するものとして交渉されたこと
(2) 1つの契約において支払われる対価の額が、他の契約の価格又は履行により影響を受けること
(3) 当該複数の契約において約束した財又はサービスが単一の履行義務となること
先程の例では、「テレビ自体を引き渡す契約書」と「5年間無償で修理する契約書」は両者とも(1)同一の商業目的であり、(2)お互いに影響を与え、(3)販売者は片方だけ履行するといったことが出来ませんので、「結合」する必要があります。2つの契約を纏めて「テレビ自体を引き渡す&5年間無償で修理する1つの契約」として、ステップ2以降に進んでいくことになります。

4.契約が変更されたらどうすれば良いの?
4-1 契約の変更とは
契約の変更は「範囲」又は「価格」(あるいはその両方)が変更されることを言います(基準28項)。記載内容の些末な修正まで検討しなおしていたらきりがないですので、収益認識に影響を与える部分の変更に絞っているのです。
4-2 変更が未確定の場合
変更が未確定と一口に言っても様々な状況が考えられますが、大きく「未承認」の場合と「一部未確定」の場合に分けられます。
(未承認のケース)
会社Aと会社Bとの契約変更が担当者レベルで合意していたとします。会社Aは社内の変更承認が下りているものの会社Bの方では変更承認が下りていないまま決算日を迎えてしまった場合、契約は変更されていないもの(既存の契約を引き続き適用)とします(基準28項)。

(一部未確定のケース)
商品の数量や引き渡しの時期は変更が確定(両者承認済)したものの、価格の面で交渉中のまま決算日を迎えてしまった場合、「契約の変更」として取り扱います(基準29項)。

4-3 契約変更:「独立した契約を締結」
契約変更が製品の単純な追加のように、独立した別個の契約と考えられる場合は、新たに独立した契約を締結したものとして考えています。
テレビを10台販売する契約に、追加でテレビを5台販売する項目(これまでと同額)を入れて、合計15台のテレビを販売する契約に変更しました。
この場合、契約書は1つですが、実質的には「テレビを10台販売するもともとの契約」と「テレビを5台販売する追加契約」の2つと言えますね。
収益認識会計基準ではこのような契約変更は「独立した契約」とした上で、別個の契約として会計処理を行っていくことになります。
(1)契約の範囲の拡大(単純な台数の追加等)
(2)追加金額が独立販売価格に適切な調整を加えた金額分である(単独で販売した時と大きく金額が変わらない等)

4-4 契約変更:「一旦解約して、新しく契約を締結」
「独立した契約」となる要件を満たさない場合、次に考えるのは「一旦解約して、新しく契約を締結」したことにするかどうかです。
安価なテレビAを10台とテレビBを10台販売する契約(テレビAは10台引渡済)に、高級なテレビCを10台販売する項目を追加しました。
高級なテレビCは普通に販売すると1台50万円ですが、今回の契約ではセット価格のため1台35万円で契約しています。
テレビCはこれまで引き渡したテレビAとは別の製品で、かつ単独で販売した時と大きく金額が変わっていますね。
そのため、会計上は締結済の契約を解除し、新規契約を締結し直したものとして会計処理をすることになります。
(1)「独立した契約」の条件を満たさない
(2)未移転の財・サービスが、契約変更日以前に移転したものと別個のもの
基準の規定はやや難しいものとなっていますが、ざっくりお伝えすると「これまでと別の製品を契約に織り込み」かつ「その製品の販売価格が単独販売価格と異なる」場合です。

4-5 契約変更:「これまでの契約の一部」
上記を満たさない場合、変更契約はこれまでの契約の一部として考えていきます。
(1)「独立した契約」の条件を満たさない
(2)未移転の財・サービスが、契約変更日以前に移転したものと別個のものではなく、単一の履行義務の一部を構成

5.まとめ
今回は新・収益認識会計基準の入り口である「ステップ1:契約の識別」について見てきました。単純に契約を識別すると言っても、様々なパターンがあることが読み取れたと思います。
大切なのは識別した契約ごとに、ステップ2以降に進んでいくという点です。形式的な契約書の通数に縛られるのではなく、実質的に契約が1つなのか複数なのかを確認することになりますので、「その取引の実態はどうなのか」を考えていくステップと言えるでしょう。

