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1.財務諸表を読むとはーなぜ財務諸表分析が必要か
財務諸表を読む理由は人それぞれです。自社の財務状態はどうか、投資先の財務状態はどうか、この会社と取引をして良いか、様々な目的を持って財務諸表を見ます。
しかし、財務諸表をただ見ているだけでは数値の羅列にすぎず、単純に見比べただけでは「利益が大きい」「資産が多い」といった単純な内容しか分かりません。そこで、財務諸表を分析する必要が出てきます。
ここで1つ例を出しましょう。
皆さんが土地を購入するとします。A土地は3,000万円、B土地は1億円です。さて、どちらが良いでしょう?

A土地は3,000万円(30㎡)、B土地は1億円(200㎡)です。これで少しは比較ができそうですね。
A土地は1㎡当たり100万円、B土地は1㎡当たり50万円となるため、ぱっと見はB土地の方が高く見えましたが、1㎡当たりの金額はA土地の方が断然高いです。
ここから、例えばA土地は都心部の土地であることや、B土地はA土地に比べて安くなっている何らかの条件があるのだろうなといったことが想像できるようになりますね。
このように「本来比較しにくい」ものを、「比較できるようにする」のが財務諸表分析です。



2.財務分析の種類
財務諸表分析には様々な指標がありますが、主に押さえておくべきは「収益性」と「安全性」です。本記事では「収益性」について見ています。
各分析について、まずは根本の考え方を確認します。その後「A社」「B社」の2社を例に出しますので、どちらの会社が良い指標かを考えていきましょう!
Column:財務諸表分析における根本の考え方って?
財務諸表が分かりにくい一番の原因は、その分析量が多いことでしょう。
いざ分析するとなっても、「売上高総利益率」「売上高営業利益率」「売上高経常利益率」「売上高当期純利益率」という風に、指標の名前が多く戸惑ってしまうことが挙げられます。
しかし、上に挙げた例の根本は全て「利益」が「どれだけの売上から産み出されているか」です。この「利益」が色々な指標に置き換わっているに過ぎないのです。
その上で、状況に応じて使い分ければ良いのです。本業で獲得した利益が重要となる場面での比較では、本業で獲得した利益である営業利益を用いた「売上高営業利益率」を使います。株主にとっての配当原資が重要となる場面では、配当原資である当期純利益を用いた「売上高当期純利益率」を使います。
まずは基本の考え方を押さえ、状況に応じて使い分ける。これが財務諸表分析を押さえる一番のポイントです。
3.収益性分析
まずは企業の収益性を分析しましょう。収益性分析とは「どれだけ効率良く利益を産み出しているか」を確認する分析です。
具体的には「利益」が「①どれだけの資産から産み出されているか」「②どれだけの売上から産み出されているか」を考えていきます。
3.1 総資本利益率(ROA):当期純利益÷総資産
まずは「利益」が「①どれだけの資産から産み出されているか」のパターンとして代表的な「ROA」(Return On Assets)と「ROE」(Return On Equity)です。
企業の最終数値である「当期純利益」が、どれだけの「総資産」から産み出されているかを表す指標です。この「総資産」という点がポイントです。

「総資産」とは、企業が過去から積み上げてきた店舗・工場・倉庫・在庫・現預金・無形資産といった「全ての資産」を示します。これらの資産は、株主の出資分である自己資本に加えて、銀行借入金といった他人資本も元手としています。全ての資産を活用して、企業がどれだけ効率的に利益を稼いでいるかを示す指標がROAとなります。
2社比較で考えるROA
A社:総資産1,000億円、当期純利益50億円
B社:総資産100億円、当期純利益10億円
A社とB社を比較すると、A社の方が規模の大きい会社であることは一目瞭然ですね。
しかし、ROAはA社5%、B社10%であるため、効率的に利益を稼いでいるという観点からはB社の方が良いということになります。
3.2 自己資本利益率(ROE):当期純利益÷自己資本
続いてROE(Return On Equity)です。先ほどのROAと同様、「利益」が「①どれだけの資産から産み出されているか」のパターンです。ROAは総資産でしたが、ROEは自己資本になっています。
※自己資本=純資産-新株予約権-非支配株主持分
自己資本は、株主が投資している資本と企業が獲得した当期純利益の蓄積を合計したものです。貸借対照表の右側は「負債」と「純資産」から成りますが、このうち「純資産」に当たる部分に「自己資本」が入っています。




ROEは、株主自身の持分である自己資本を、企業がどれだけ効率的に使って利益を獲得しているかを示す指標です。企業が株主の期待にどれだけ応えているかを示す指標とも言えますね。
Column:ROEは海外の投資家に人気?
アメリカを中心とする海外の投資家はROEを重視する傾向があります。海外では「会社は株主のもの」という意識が強いため、株主にとっての価値を測る指標の1つであるROEが重宝されるのです。
日本市場にも少なくない数の海外投資家がいますので、ROEを高めようと考える日本企業も増えてきています。著名な投資家であるウォーレン・バフェットでさえも、投資対象の目安にROEを取り入れているようですね。
2社比較で考えるROE
A社:総資産100億円、自己資本10億円、当期純利益1億円
B社:総資産100億円、自己資本100億円、当期純利益1億円
A社とB社は共に同じような規模であり、ROAも共に10%の会社です。一番違う点が「自己資本」の金額です。新株予約権や非支配株主持分がないとすると、負債・純資産の金額は以下の通りです。
A社:負債90億円、自己資本10億円
B社:負債なし、自己資本100億円
A社は主に借入によって資金調達をして、事業活動を行っています。一方B社はいわゆる無借金経営です。借入を行うことなく、自己資本のみで事業活動を行っています。
両社のROEは、A社10%、B社1%です。一見すると無借金経営のB社の方が優良に見えますが、株主自身の持分である自己資本を効率よく使用しているかの観点からするとA社の方が効率的な企業になります。
負債は株主資本と比べると要求利回りが低いため、株主からすると倒産をしない程度に借金をして事業を拡大し、利益を増大させてほしいのです。そのためA社とB社は、株主の視点ではA社の方が効率的に稼いでいる企業ということになるのです。


3.3 売上高利益率:利益÷売上高
最後に、「利益」が「どれだけの売上から産み出されているか」を見る指標を紹介します。先ほどのコラムの通り、この「利益」の部分を変えることで指標の意味も変わることとなります。
(1)売上高総利益率:売上総利益÷売上高
売上高総利益は「売上-売上原価」です。「粗利率」とも言い、売上に対し直接的にかかった費用分のみを差し引いて求められる利益の、売上高に対する割合です。
例えば、80円で商品を仕入れて100円で売った場合、粗利率は20%となります。
売上に直接紐づく費用のみ考慮に入れるため、企業が有する本業の直接的な競争力を図ることができます。
(2)売上高営業利益率:営業利益÷売上高
営業利益は「売上-売上原価-販管費」です。間接的に発生する費用(給与等)を差し引いて求められる営業利益は、企業本来の営業活動の成果を意味します。
そのため企業の本来の実力や企業の管理効率を示します。
(3)売上高経常利益率:経常利益÷売上高
経常利益は「売上-売上原価-販管費±営業外損益」で、会社の通常の事業活動の成果として正常な収益力を示します。
営業外損益には金融損益(受取利息・支払利息等)が含まれるので、通常の営業活動に加えて、借入等の事業戦略も含めて、会社が効率の良い経営を行っているかを示します。
(4)売上高当期純利益率:当期純利益÷売上高
当期純利益は「売上-売上原価-販管費±営業外損益±特別損益(-税金費用)」で示され、企業の最終的なボトムラインを示します。
そのため、その1年間を通して最終的にどれだけ効率よく稼いだのかを考えることができます。当期純利益には税前と税後があり、税前であれば税金の影響を考慮外とし、税後であれば税金の影響も考慮して分析することになります。
2社比較で考える売上高利益率
A社:売上高1,000億円、営業利益100億円、当期純利益50億円
B社:売上高100億円、営業利益20億円、当期純利益1億円
A社は営業利益率10%、当期純利益率5%である一方、B社は営業利益率20%、当期純利益率1%です。本業である営業利益率はB社の方が高いため、本業の好調さはB社の方があると言えるでしょう。
しかし、借入や特別損益を加味した当期純利益率になると、A社の方が上です。B社は多額の借入による支払利息が計上されていたり、減損損失等の特別損失を計上しているかもしれません。企業が1年間に稼いだ利益の効率性という観点では、A社の方が効率的であったと言えますね。

